頼むスキル
療育の大切なスキルのひとつに、「頼むこと」があります。
頼むことは誰にとっても重要なスキルですが、特別な配慮を必要とするお子さんは特に、
- 集団生活の流れがわからない
- 次に何をすれば良いのかわからない
- 先生の指示が聞き取れない
- 作業が難しくてどうすれば良いのかわからない
など、周囲のお子さんに比べてより多くの「困った」に直面することが多いものです。
そんなときに、自分から
「~~がわかりません」
「次はどうすれば良いですか」
「手伝ってください」
などと周囲にヘルプを求めることができると、ご本人も周囲もとても楽になります。
頼むことって難しい!
ところが、頼むことやヘルプ要求を出すことは、意外に難しいものです。
どのタイミングで頼めばいいかの判断も難しいですし、その前段階として、そもそも自分が困っていることに気づかなかったり、大人に助けを求めればうまくいくという実感を持てていなかったり、自分から人に向けて発信するコミュニケーションが苦手だったり、ということもあります。
- そもそも自分が困っていることに気づかない
- 大人に助けを求めればうまくいくという実感を持てていない
- どのタイミングで頼めばいいのか判断が難しい
- 自分から人にアプローチするのが苦手
など
どの段階から練習すれば良いか、その子の現在地をしっかり見極めてサポートしてあげたいところです。
場面を設定して練習する
実際の集団生活では、次から次へと物事が起きては流れ去っていきます。
この流れの中で頼む練習をするのはなかなか難しいので、ご本人にとって頼みやすい状況・事柄を設定して練習していくと良いでしょう。
練習を設定するときのポイントは2つです。
ポイント1:頼みやすい相手・環境であること
最初は大人を相手に練習し、慣れてから、同世代の子(できれば、相手に受容的な態度を取れる子が望ましい)に頼む練習に進むと良いでしょう。
また、安心してリラックスした状態でないと、苦手なことに取り組むエネルギーは出てきません。
コミュニケーションに苦手意識があるお子さんの場合は特に、思ったことを素直に言っても叱られないこと、自分の発言をバカにされたり却下されたりせず受け入れてもらえること、を十分に納得させてあげましょう。
ポイント2:メリットを実感できること
子供たちは、自分がやりたいと思ったことしかやりません。
練習を考えるときには、「その練習を行った結果、お子さんご本人がメリットを実感できる」ことを題材とし、「頼んだら、自分にとって良いことがあった!嬉しい!」と実感できるようなプロセスを構築しましょう。
練習を練習として終わらせず、実際の生活に活用していく意欲を持ってもらうためにも、とても大切なことです。
頼む練習の例
家庭で、親御さんに頼む練習の一例
ご本人の好きなもの(ゲーム、マンガなど)を、一人では取り出せないところ(鍵のかかる棚、手が届かない高い場所など)に片付けておきます。
ゲームで遊びたくなったときに、親御さんに「〇〇で遊びたいから取って」とお願いします。
言葉で言える子は言葉で、発話が難しい子は絵カードを提示する等で意思表示してもらいましょう。
親御さんは、頼まれたら、できればお子さんを待たせず、すぐに応えてあげてください。
「頼んだらゲームを出してもらえた(=頼むことは良いことだ)」という因果関係をしっかりと伝えることができます。
練習に慣れてきたら、「今は忙しいから5分待って」「今日はゲームの時間はないからまた明日にしましょう」など、お願いを断られたらどうするか?という発展練習に進むこともできます。
お友達同士で頼む練習の一例
難易度:★☆☆
文房具やおもちゃなどを「貸して」「いいよ」と受け渡します。
年齢の低いお子さんも練習可能です。
最初は「いいよ」の返事のみで練習し、慣れてきたら、「今使っているからあとでね」等、断ったり交渉したりする練習に進みます。
難易度:★★☆
算数や漢字などの学習課題を与え、「わからないところは相談し合ってOK」とします。
可能なら、その学課が得意な子がチームに参加していると理想的です。
自分がわからないところを、わかる友達に質問して答えを書く練習です。
必要に応じて、「〇〇君は漢字が全部書けているみたいだよ。『〇〇という漢字はどう書くの?』と聞いてみたら?」などと大人が誘導します。
難易度:★★★
たとえば3人のチームメイトが5分ずつ自分の遊びたいゲームで遊べるとして、「自分は〇〇で遊びたいので一緒にやりましょう」「いいですね、遊びましょう」などとやりとりするところからスタートします。
慣れてきたら、ゲームのルールや遊ぶ内容を相談し合って決めてみましょう。
(お願いというよりは相談・交渉の練習に近くなるため、かなり難易度が上がります。)
学齢、発達の度合い、チームメンバーの信頼関係などに応じてさまざまな練習内容が考えられます。より詳しい練習内容を工夫したい方は、オンラインセッションまでご相談ください。
かすかなアクションでも取れることが大事
実際の生活の中では、たとえば先生の傍に立って「先生・・・」と小さく声をかけたり、「ねえ、これ・・・」と誰かの顔を見たりするだけでも、相手が気づいて質問を引き出してくれることもあるでしょう。
言葉でしっかりと「~~を教えてください」などと言えればベストではありますが、相手に伝わるためには、かすかなアクションを起こすだけでも十分なのです。
その子の性格や言葉の力、生活の状況などを考えて、ご本人にとって無理なく発信できるコミュニケーションを練習していけると良いですね。
頼むことが持つ本当の意義
大人の中にも、頼むことが苦手な人は少なくありません。
あなたも、(わざわざ人に頼まなくても、自分でできることは自分でやってしまえば早い)、と思っていませんか?
人に頼むことで、その人の時間を奪ってしまうとか、自分のことで相手に迷惑をかけてしまうとか、ちょっとくらいなら自分が我慢しておけばいいやとか、そんな風に感じる方もいらっしゃるだろうと思います。
でも、実は、、、
「頼むこと」によって、相手と自分との関係性はさらに深まります。
身体が緩み、お互いが発信していることをより良く受け取れるようになります。
自分の中にこもるのではなく、相手を信頼して、お互いのエネルギーが交流し始めます。
お互いに独り言を言っていた人たちが、向かい合っておしゃべりを始めるようなものです。
わたしたちは、「頼む」ことによって、お互いの関係性を深め合い、信頼を築き合っているのです。
思い切って頼んでみてください
何でもかんでも頼む必要はもちろんないのですが、
自分でもできるけど/自分が我慢すれば済むけど、
あなたにこれをやってもらえたら助かる、楽になる
という場面がもしありましたら、ぜひ自分でやらずに、相手に頼むことをしてみてください。
きっとその先に、いつもと違う展開が待っていると思いますよ(^ ^)
本日は以上です。
それでは、また。
いつもあなたに明るい風が吹きますように。
無理に頑張らなくても
気づいたら自然とうまくいく
身体の原理原則を学べば
枝葉のテクニックに捉われず
その子の発達能力をできるだけ引き出す
関わりができるようになります