メール講座の読者さんから、こんなメッセージをいただきました。

 

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今、勤務している○○小学校の支援学級は在籍が36名です。
どの子もそれぞれに特性があり、個別の働きかけを必要としています。しかし、最近保護者の方々のニーズが大きく変化してきており、とにかく学習についていけるようにして欲しい。早くみんなと同じ環境で学べるようにして欲しいといったものが大半を占めます。
個別でまだまだやりたい自立の課題や生活単元の内容はほぼできない状態です。
そんなことより勉強を進めてくれと言われます。
無償の塾・家庭教師的な感覚で捉えられている感じです。
ですが、定数8人という枠の中で、個別で学習がみんなと同じようにできるまで引きあげられるか?と言われたら ごめんなさい 無理です。
保護者の抱える悩みも聞き、次の日の準備をして、校務もこなしながら務めていますが、毎日21:00頃帰宅して家事に勤しむ毎日です。
合理的配慮を都合のいいように捉えられている感も否めません。
完全なサービス業の現場はいっぱいいっぱいの毎日ですが、自立に向けて私たちはどうたち振る舞えばよいでしょうか?
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未来を担う子供たちのために、毎日遅くまで骨身を惜しまず働いてくださり、誠にありがとうございます。

こちらの先生は、きっととても真面目で誠実な、自分に手を抜かない方なのだろうと思います。

だからこそ、自分一人ではどう頑張っても保護者の期待に応えきれない(ように見える)現実に、やりきれない思いを持たれているのではないでしょうか。

 

 

今回のご相談を拝見して思ったのは、先生も保護者も、「相手が物事をどう見ているか・どう見ようとしているか」を意識しきれていないのではないかな?ということです。

 

人は、自分の見たいようにしか物事を見ない生き物です。

だからこそ、相手が物事をどう見ているかを、常に意識し続けることが、相互理解の第一歩になります。

 

保護者の意見が学習面での強化を望むものに変化してきたということは、逆に言えば、これまでの指導は保護者にとっては「自立の課題や生活単元に偏っているように見えていた」、という可能性もあるかもしれません。

合理的配慮の取り組みが始まったおかげで、その意見を保護者が発信しやすくなった、先生に訴えやすくなった、という側面もあると思います。

これは、実際に授業が自立課題に偏っていたのかどうか、ということとは関係ありません。
問題解決のポイントは、先生の側は自立課題を優先すべきと考えている、保護者の側は学習面の遅れに不安や不満を持っている、そしてこの両者の間に理解の溝がある、というところにあると考えています。

 

直接生徒さんを教える先生の側からすれば、保護者に言いたいこと、理解を求めたいことは山のようにあることでしょう。
生徒の人数も多く、校務も忙しく、何かとやることが多いというのに、保護者は都合の良い要望ばかりを突きつけてくる。まるで自分たちを無償の塾や家庭教師のように見ているようだ。私たちのやっていることは完全なサービス業だ。
・・・そんな先生方のお気持ちは、痛いほど伝わってきます。

子供が学校にいる間は、保護者は子供の様子を見ることができません。そこで保護者としてはついつい、先生にあれこれお願いしたくなる部分もあると思います。
先生だって、自分の生活も家庭も悩みもある一人の人間なんだということを、保護者全員が自分の立場に置き換えて味わってみるべきでしょう。

 

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このような時は、「相手が物事をどう見ているか」をお互いに理解し合うプロセスが欠かせないと思います。

 

まず、先生も保護者も、一旦自分の意見は脇に置いて、相手の気持ちを真摯に聞き合う機会が持てるとよいですね。

どんな保護者でも、たとえば自分の子が5年生であるのに、2年生の教科学習を行っているとしたら、不安を持つのは当然です。
先生が、自立課題や生活単元を学習指導よりも優先すべきだとお考えならば、その理由をしっかりと言語化して、保護者にわかりやすく説明しましょう。「生活上のこのような姿勢が整わなければ学習が進まない」とか、「この生活態度を今指導しておかないと定着してしまって日常生活に大きな支障が出る」とか、お子さんお一人お一人の状況によって、先生なりに理由があるはずだと思います。それを丁寧に保護者に説明しましょう。
個別の指導計画で、それぞれの自立活動の狙いはどのように記載されていますか? その狙いを踏まえての説明ですと、説得力を持ちやすいでしょう。
毎日保護者の悩みを聞く時間も取ってくださっているようですから、ここで個別の指導計画を間に置いて、それを確認したり微調整したりしながら話し合うとスムーズなのではないでしょうか。

 

その上で、どうすれば保護者の望むように学習面を強化していけるか、ロードマップを描いてみましょう

「○○の生活態度を整える→机についていられる時間を増やす→並行して、体を動かす活動の中に○○の学習要素を取り込む→それによって○○の概念の定着を目指す→○○の学習に進む・・・」

といったように、これをクリアしたらこれに進もうと考えている、という工程を、大まかにでもよいので、保護者と共有します。
ロードマップを作るためには、当面の目標(目的地)を検討する必要があります。「○学期が終わるまでに○○ができるようになる」「○○の学習を終える」といったわかりやすい目標を設定しましょう。
この時、保護者の意見を第一に伺いつつ、お子さん本人の意見も可能ならば聞いていくと良いでしょう。保護者の希望と全く違う思いをお子さんが抱いている場合も結構多いものですよね。また、実際にロードマップを進めていくのは先生ですから、先生にとっても無理のない目標にしたいものです。三者の希望をうまくすり合わせるのが難しいとお感じでしたら、コーディネーターの先生や教務主任の先生など、第三者に同席してもらうのも良いかもしれません。

 

もちろん現実にはうまくは進まないこともあるでしょうし、やろうと思っていたことと全く違う方向に進んでいくこともあると思います。それはそれで構わないのです。目標を立てた時点のお子さんと、今この瞬間のお子さんとでは、全く状況が違うのですから。目標はいくらでも修正していけばいいのです。変わっていく目標を、保護者とそのつど共有していきましょう。

 

人は、先が見えないことに対して不安を持つものです。このロードマップを共有することで、保護者の不安を解消することにもつながります。

もちろん、不安を解消することを求めるあまり、無理なスケジュールを立てるのは禁物です。
上級学年のお子さんであればあるほど、これまでに積み残してきた学習範囲も多くなっているでしょうから、実際にどこまで学習面をフォローアップできるかは、お子さんの状態像をよく見極めた上で、冷静に(たとえ保護者の不興をこうむったとしても、あくまで現実に立脚して)検討すべきだと思います。

「○○の自立活動に、足し算学習の要素を取り入れる」
「○○の教科学習を行いながら、挙手して発言を求める活動を取り入れ、気持ちのコントロールを目指す」

など、先生が目指したいことと保護者が希望することをうまく融合させた活動を工夫できると、お互いに納得も生まれやすいように思います。

 

 

またもし、たとえば「人手が増えれば学習も進められるかもしれない」といった状況があるのであれば、その点も冷静に見つめ直すべきではないかと思います。

宿題を家庭できちんと見てもらうとか、生活習慣を整えてもらうとか、家庭で協力していただくことで学校での指導が円滑に進むことがあるのでしたら、遠慮なくお願いしてみてもよいでしょう。
学習面でのサポートをご家庭にお願いするのは、あまり難しい内容では保護者も困ってしまうかもしれませんが、たとえば繰り上がり・繰り下がりの計算練習の土台として、10になる数の組み合わせの暗記カードを作って、ご家庭でも暗記練習をしていただくといったようなことならば、喜んで協力していただけるお家も多いのではないかなと思います。

また、校務の効率化や、手の空いている先生にサポートをお願いできないか検討するといったような、学校内の調整も効果的だろうと思います。
校内のことを一番よくわかっているのは学校の先生方ですから、お互いに助け合うヒントがたくさん見つかるのではないでしょうか。

 

 

こうして保護者と話し合いながら日々の授業を進めていただくと、保護者の側の不安や不満は、だいぶ「形が変わってくる」のではないかと思います。
話し合いを通して、「みんなと同じように授業についていけるようにする」ことがなかなか難しい目標であることが、保護者にも伝わるかもしれません(この点は、お子さんの現状や学校の状況によりますので、何とも言えませんが)。
また、先生が真摯にお子さんや保護者と向き合っておられることが、有形無形に伝わって、保護者の安心感につながるかもしれません。
すると、最初は「とにかく勉強を引き上げたい」と思っていた保護者の気持ちが、全く別の形になっていくと思います。

 

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相手が物事をどう見ているかを、冷静に見つめ直す。
この作業のためには、自分の思いを一旦手放して、一段高いところに自分の視野・視座を持っていく必要があります。

一段高いところから物事を見つめ直すということは、自分自身に「軸」があるからこそ、できることです。
ここでいう「軸」とは、今回の場合、教育に向ける情熱、理想の教育、人生への志、子供たちに伝えたい理念、そういったものになるでしょう。

 

先生は、どんな情熱・理想・理念・志を持って、教員の道を目指されたのでしょうか。
毎日の激務を乗り切っていく先生の「軸」は、明るく、温かく、輝くほど強く、美しいものだと思います。
保護者との話し合いの機会がたくさんあるのは、ご自身のお心の中をもう一度見つめ直す素晴らしいチャンスをもらっているということですね。
誰にでも与えられるチャンスではありません。あなただからこそ、受け取ることができたチャンスだと思います。

教育観とは、その方の人生観そのものです。
一人の人間を育てていく教育という道のりが、「みんなと同じように授業についていけるようにしてほしい」といった言葉通りに進むほど簡単なものではないと、誰もがきっと心のどこかではわかっているのではないかと思います。
保護者が信頼を寄せるのは、先生の志に対してです。
話し合いを通して、お互いの教育観、人生観を伝え合うことができれば、きっと学校での毎日も、少しずつ色合いが変わっていくのではないでしょうか。

 

 

具体的なお子さんの事例や学校の状況が全くわからないので、的外れなご提案になっているところもあるかと思います。その点はどうぞご容赦ください。

ご指導のご参考になる箇所が少しでもあればと思います。

先生方、保護者の皆さん、そして何より子供たちの、より良い毎日のために、心からお祈りいたします。