こんにちは。
<じぶんの木を、育てよう。> 三輪堂の瀧本三輪子です。
メール講座を受講中のMさんから、こんなご質問がありました。
Mさんは、児童発達支援事業所で指導員をされているそうです。
ご質問を一部抜粋してご紹介します。
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多動性のある2歳の男児です。
支援の途中で穏やかにクレーン現象で私を引っ張り、教室から出ます。
そして、教室を嫌がり癇癪(泣き叫ぶ)を起こします。
本児は絶対に入ろうとしません。
私も一歩でも足を踏み入れると怒ります。
原因を探りますが、気に触ることや恐怖感を与えるようなことはしてないと考えます。
他に考えられる要因やこの場合の対応方法をご指導いただきたいです。
よろしくお願いいたします。
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教室から出て行く時に先生(Mさん)を一緒に連れていくところがかわいらしいですね。
先生と一緒にいたい、離れてほしくない、そんな思いが伝わってきます。
ご質問の文章(こちらには記載していない部分も含めて)からは、Mさんの強い責任感やプロフェッショナルとしての誇りが伝わってきました。
利用者のお子さんやご家族の力になりたいという思いで、誠実にお仕事に向き合っておられるのだろうなあと感じます。
教室から出ることに焦点を当てる支援
さて、ご相談のお子さんは、実年齢からも、行動の様子からも、発達段階はかなり初期のお子さんではないかと想像します。
理解言語も表出言語も少なめではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
その場合、大人があまりたくさんの言葉で働きかけると、かえって混乱する可能性もあります。
学習時の指示などはできるだけ声かけを簡潔にし、お子さんにとって自然な見え方・聞こえ方・理解の仕方・行動の仕方につながるように工夫しましょう。
教室から出ていくという行動を取り上げる時は、お子さんを教室にいられなくしている要因を検討することが多いですね。
支援事業所でも既にケース会議などをされているでしょうから、言わずもがなとは思いますが、念のために確認しておきましょう。
〇空調や時計などのホワイトノイズ
〇チャイムやサイレンなどの突然の音
〇湿度や気圧
〇カーテンの揺れ
〇窓から入ってくる景色や物音
〇職員の動き、声色、雰囲気、匂い(化粧品、整髪剤など)
〇室内にある什器や道具などの見た目
〇他児の動き、声、雰囲気
〇活動内容の難易度、向き不向き
〇動きたい衝動が高まった
〇活動をやりたくない気持ちが高まった
〇身体的な不快(飽きた、疲れた、空腹など)
〇前後の活動を引きずっている(家庭で嫌なことがあった、週末の疲れが残っているなど)
などなど
ビデオ撮影をして、ご本人が教室を出ていく前後の活動内容や人の動きを確認したり、家庭や教室での生活状況を1時間ごとに記録して、教室から出ていく日に共通点がないか探したり、といった働きかけもよく行われますね。
このようなサポートによって、何らかの問題点を見出し、それを改善しようとするのが、働きかけの一つです。
教室に戻ることに焦点を当てる支援
もう一つ考えられるのは、「教室から出る場面」ではなく、「教室に戻る場面」に焦点を当てる働きかけです。
教室から出たら、大人はゆったりと腹を据えて、「この子の時間と空間を共有する」気持ちで過ごします。
早く部屋に戻らなきゃ、また活動が進まない、予定通りにいかない、、、
そんな思いも咄嗟に浮かぶと思いますが、焦りや不安はエイッと脇に置いてしまいましょう。
先生が大らかに落ち着いていると、その空気感はお子さんに伝わり、お子さん自身もゆったりした気分になる、かんしゃくが鎮まりやすくなる、といった影響が期待できます。
お子さんのかんしゃくが収まったら、静かに促して教室に入り、活動を再開しましょう。
この時は、「気持ちを切り替えること」を目標に働きかけます。
好き勝手に外に出られる、教室の外に出れば活動を中断できる、と思ってしまうと、望ましくないこだわりにつながる可能性もあります。
あくまでも廊下に出るのはクールダウンのためで、落ち着いたら教室に帰るということを一貫して伝えるとよいでしょう。
数字や文字がわかるお子さんなら、「30数えたら教室に戻る」などの働きかけも可能ですが、2歳のお子さんではそれほど理解が進んでいないと思いますので、「体感でわかる」働きかけを工夫しましょう。
たとえば、いくつかのボールと穴の空いた箱を用意して、すべてのボールを穴に入れ終わったら教室に帰る、といったように、「同じ動作を複数回繰り返す」活動を通して、数の感覚を伝えます。
この場合は、ボールを30個用意しておけば、30の数唱と同じことができるわけです。
お子さんの目に入りやすい・興味をひきやすい活動、お子さんの発達段階に合った活動を工夫しましょう。
また、室外に出る時は、可能な限りお子さんに大人の意志を伝えるとよいかと思います。
お子さんのクレーンによって黙って教室外に「持ち出される」のではなく、お子さんのクレーンに軽く抵抗したり、しゃがんでお子さんの視界に入ったりして、お子さんの気をひき、アイコンタクトを取ります。
その上で、「外に出たいのね」「一緒に出ようね」と簡潔に声をかけ、手をつないで一緒に外に出ます。
このステップを踏むことで、「他者の意図の存在」をお子さんに気付かせ、活動の切り替わり(教室内での活動を一旦やめて外に出る)を意識させることにつながります。
お子さんの自由意志に任せて、廊下にいたいなら廊下で活動すればよい、その方が主体的な行動を引き出せる、とする考え方もあると思います。
関係者(お子さん・ご家族・支援者・施設など)の性格・信念によって、場所にこだわらずやるべきことをやるという道を選択するのも一つでしょう。
ただ、今回のご相談のお子さんには、ある程度の枠組みを作ってあげた方がご本人の指針になるような気がしますので、教室に戻ることを前提とした働きかけをご提案しました。
身体への働きかけ
発達段階が幼い方、理解言語が少ない方、感情が高ぶっている方には、思考や言葉で働きかけるよりも、肌の触れ合いや身体の動きで思いを伝える方がうまくいくことが多くあります。
お子さんが泣き叫んでいると、無意識に大人の心身も緊張します。
お子さんがかんしゃくを起こしている最中は、大人は肩の力を抜いて深呼吸をし、自分の緊張をゆるめましょう。
かんしゃくが少し落ち着いてきたら、ゆっくりとお子さんの背中や腕に触れ、静かに撫でたり、柔らかくマッサージしたりして、お子さんの身体をゆるめてあげましょう。
軽く圧をかけて一定の方向にさすると効果的です。
この時、大人は自分の手に力を入れず、ゆったりと呼吸しながら、自分の手の温かさ、お子さんの身体の温かさ・柔らかさを感じるようにします。それ以外は何も考えなくてOKです。
※皮膚の感覚が過敏な場合は、無理に触れるのは避けましょう。
大人に触れてもらって自分の身体を意識できるようになると、精神的にも安定してきます。
感覚過敏が和らぐ、周囲の人・物に興味を向けるようになる、かんしゃくやパニック等が減る、生活が落ち着く、興味関心が広がる、睡眠の質が向上する、など、さまざまな良い影響が期待できます。
とはいえ、まだ2歳さんでは、行動にムラがあるのも当然ですね(^ ^)
焦らずゆったりと、お子さんのペースに合わせて進んでいきましょう。
お子さんが今必要としている働きかけのヒントは、その子の行動や態度の中にきっと隠れています。
大人がゆったりとした気持ちでお子さんに寄り添い、手で柔らかく身体に触れ合うことで、大人もお子さんの様子に気付きやすくなります。
ぜひまたお子さんのご様子を教えてくださいね。
お子さんとご家族、Mさんと施設の皆さんの素晴らしい毎日を心から応援しています!
回答は質問いただいた文面から推測できる範囲でアドバイスさせていただいたものです。
今回のアドバイスが最善とは限りません。
実践に関しては、使える部分をアレンジして、保護者・指導者の方々のご判断の上でご活用いただければと思います。
瀧本三輪子 拝