お子さんの言葉の力を伸ばすには、絵本の読み聞かせをしたり、たくさん話しかけたりすると良い、とよく言われます。これは大体の場合には正しい働きかけなのですが、耳から聞く力・言葉を受け止めて解釈する力が十分に育っていないお子さんの場合はご注意を。大人がたくさんの言葉かけをすると、逆に混乱につながってしまうことがあります。

 

どういうことか、ちょっと想像してみましょう。

 

 

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たとえば、あなたが英語圏の国を旅行していて、道に迷ったとします。カタコトの英語で、駅はどこですかと近くの人に尋ねたとしましょう。その人は大変親切で、笑顔で答えてくれました。たとえばこんなふうに。

 

man

May I help you? Did you get lost? Oh, you probably want to go to the train station, right? Don’t worry, it’s right there. Just keep going straight that way, then make a left at the very first light that you can see from here. You will be in front of the station before you know it. You can’t miss it!! Good luck and have a good day!

 

流れるように飛び出すネイティブのカジュアルな英語を聞き取るのは、不慣れな旅行者にはなかなかの難題です。英語がわからないわけではなくても、この返事のポイント「まっすぐ行って最初の信号を左に曲がる」を瞬間的に理解するのはかなり難しいでしょう。

 

一方、こんなふうに答えてもらったとしたらどうでしょうか。

 

woman

Go straight, and turn left.

 

これなら、英文法を習いたての小学生や中学生でも理解できそうですね。

(たぶん実際のやりとりではこんな無愛想な答えは返ってこないと思いますが ^ ^;)

 

 

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言葉を聞き取る・受け止める力の弱いお子さんが感じているのは、一つ目の例と同じようなことです。

意味のわからない音を次々に投げつけられているのは心地よい体験とは言えませんよね。仮にそのお子さんに聴覚の過敏があればなおさらです。せっかくの読み聞かせも、意味のある言葉を聞き溜めていく体験にはならず、激しく動く口の印象や、流れるように飛び出してくる「音」の印象ばかりが心にたまっていく時間になってしまうかもしれません。

 

そんな時は、二つ目の例のように、必要なことだけを静かに丁寧に声かけしてもらえれば、意味が掴みやすくなります。短い言葉なら、気をつけて聞き取ろうとする意欲も湧いてきやすくなります。また、具体的なものを目に見せてあげながら声かけをするのも大変わかりやすい働きかけです。道案内でも、「まっすぐ行って、左に曲がる」と指さしながら教えてもらうとさらにわかりやすくなりますよね。

 

 

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もう一つ、別の場面も想像してみましょう。

 

たとえばあなたがロシアの空港にいたとします。あなたはロシア語を一つも理解できません。そこにロシア語のアナウンスが何か流れました。その途端、待合室にいた人々が一斉に立ち上がり、小走りに部屋を出ていったとしたらどうでしょうか。ものすごく不安になりませんか?

 

語りかけられた言葉の意味がわからないということは、これほど人を動揺させるものです。

「他の人が動いた=自分も動いた方が良さそうだ」

「自分は何かの行動を期待されているらしい」

こんな事情が理解できている場合は、特に心が乱れます。

 

学校の教室にも、こんな思いをしている子供たちがいるかもしれません。一斉指示のあとに行動が乱れる(教室を出て行く、他の子にちょっかいを出す、不機嫌になる、パニックを起こす、ものを投げるなど)お子さんは、言葉かけの内容をシンプルに整理してみると良いかもしれません。

 

時には、人から話しかけられる=不安になるという因果関係を警戒して、人と関わることを避けるようになるお子さんもいらっしゃいます。人が近づいていくと目をそらす、顔をそむける、距離をとろうとする、あえて無視する、常同運動が強まるなどの反応を見せるお子さんには、こちらもよほど気をつけて関わっていく必要があります。言葉以外の、その子にとってわかりやすい方法を探り出して、コミュニケーションの意義を感じさせてあげるところから関わりを深めていくと良いでしょう。

 

 

 

今回ご紹介したのはあくまで支援の一例です。

特にコミュニケーションに関する課題は非常に幅広く、どこに苦手さを持っているかは人それぞれです。お子さんのご様子を丁寧に観察して、どんな働きかけが一番良いかを工夫してみてくださいね。お困りの場合はどうぞご相談ください。

 

 

 

支援のご参考になれば幸いです。

それでは!