ある自閉症スペクトラムのお子さんのエピソードです。

 

このお子さんの保護者は、絵カードや写真カードでの構造化がお上手で、お子さんはとてもスムーズに生活されていました。

ある日、保護者から、「全く問題なく生活できるようになったので、絵カードをやめようと思う」とご相談をいただきました。

 

さて、絵カードがなくなると、このお子さんはどんな風に感じるかな?と考えてみましょう。

おそらくですが、段階的に絵カードをなくせば、日常生活はさほど混乱なく送れるのではないかと思います。

表面上はお子さんも困った様子は見られないことでしょう。

一般社会には構造化などの支援は(基本的に)存在しないのだから、構造化は最終的にはできるだけ少なくした方がよいという考え方もありますね。

絵カードがなくてもちゃんと過ごせる!とお子さんご本人が実感することで、達成感を味わう場合もあるでしょう。

 

一方、絵カードをなくしたことで「無意識の負担」が増えるかもしれない、とも思います。

絵カードを見ることで(本人は意識しなくても)安心して生活できていたものが、絵カードがないことで、いちいち頭の中で「ここにこれを置く」「次はこれをする」と考える必要が出てくるわけです。

たとえば、買い物メモがある時とない時を考えてみるとわかりやすいかと思います。買い物メモがない時は、「パンを買って、砂糖を買って、えーとあともう一つ、何を買うんだったっけ・・・」と色々考えながらお店の中を歩いていませんか?一方、買い物メモがあると、何を買うかはあまり意識せずに、自由に色々なことを考えているのではないかと思います。

 

自閉症スペクトラムのお子さんにとっての構造化とは、この「買い物メモ」と同じです。

絵カードがあることで、頭の中で考えなくてはいけないことを減らし、その分、別のことを考えるために力を回せるのですね。

 

ですから私は、居心地よく過ごしたい場所では、絵カードを残しておいてもよいのではないかな、と思っています。

構造化の度合いを減らしたい時は、お子さんと相談しながら、少しずつ減らしていくとよいでしょう。

一度減らしても、気持ちが乱れている時は絵カードを戻すなど、柔軟に対応してあげましょう。

 

構造化を減らすことができるのは、支援が成功していることの一つの証拠です。構造化が適切だからこそ、お子さんは安心して落ち着いて生活でき、構造化が減っても問題なく行動できるくらいの余力が生まれている、ということですね。

だからといって、構造化を減らすことを支援の目標にするのは、ちょっと違います。構造化が減ることが「普通の子」に近づく道であるかのように思われている保護者ともたまにお会いするのですが(そしてそのお気持ちは本当によくわかるのですが)、構造化は決して特別な支援ではなく、大人の買い物メモや仕事のタスクリストのような、手軽に使いこなすツールなんです。

 

構造化の目的とは、それによってお子さんが安心して生活できるように、環境を整えてあげることが一番です。

それが達成できたら、大人が買い物メモを使いこなしているように、お子さんやご家族に構造化を使いこなしてもらって、ご本人にとってベストな生活スタイルを見つけていくことが大きな意義になるのではと思います。

 

構造化によって安心して過ごせるお子さんの気持ちに寄り添いながら、より良い生活環境を整えていけるとよいですね。(^ ^)